Solar-C_EUVST

科学目標

高温のコロナや太陽風はどうやってつくられるのか?
太陽フレアは、いつ、どのようにして起こるのか? EUVSTはこれらの謎に迫ります。

01. Solar-C_EUVSTの目指すサイエンス

図1:私たちの地球は太陽から流れでた高温の大気(プラズマ)の中に存在しています。
図1:私たちの地球は太陽から流れでた高温の大気(プラズマ)の中に存在しています。太陽はさまざまな波長の電磁波(光)や太陽風を通じて、絶えず地球に影響を及ぼしています。

私たちの地球や太陽系は、太陽の生みだす高温大気(プラズマ)の中に存在しています(図1)。では、このような高温プラズマはどのように作られるのでしょうか。そして、太陽はどのように地球や太陽系の惑星に影響を及ぼすのでしょうか。これらは、太陽系と生命がどのように生まれてきたのかに関わる、宇宙科学や天文学の究極の問いです。

次期太陽観測衛星Solar-C_EUVST(EUV High-throughput Spectroscopic Telescope)(図2)は、以上の問いに答えるために計画された、これまでにない高感度、高分解能の太陽紫外線分光装置です。Solar-C_EUVSTは、太陽大気加熱とフレア爆発という2つの観点から、これらの謎に迫ります。

図2:Solar-C_EUVSTは太陽大気を詳細に分光観測することで、高温プラズマの謎、そして太陽と地球との結びつきを明らかにします。
図2:Solar-C_EUVSTは太陽大気を詳細に分光観測することで、高温プラズマの謎、そして太陽と地球との結びつきを明らかにします。©NAOJ/JAXA (Solar-C WG)

02. 高温のコロナ、そして太陽風はどのように作られるのか?

図3:磁場により結合した太陽大気の構造
図3:磁場により結合した太陽大気の構造。コロナ:高温の上層大気。遷移層:彩層とその上空のコロナをつなぐ薄い大気構造。彩層:光球の上空2000 kmくらいまでの大気構造。光球:可視光で見える太陽の表面。©︎太陽画像:国立天文台/JAXA、NASA

太陽表面の温度が約6000度であるのに対し、上空のコロナは100万度以上あることが知られています(図3)。しかし、なぜコロナがこれほど高温に加熱されているのかは、現在も分かっていません。高温のコロナを説明するメカニズムとして「ナノフレア説」と「波動加熱説」が提案されています(図4)。コロナの加熱は、高速で宇宙空間に吹きだす太陽風を加速させる仕組みにも密接に関連しているため、とても重要な問題です。

しかし、従来の観測装置では、それぞれの観測する温度帯にギャップがある、分解能が足りていないなどの理由から、物質やエネルギーの輸送を切れ目なく追跡することが困難でした。Solar-C_EUVSTは、幅広い温度帯を隙間なく同時に、なおかつ高空間・高時間分解で観測します。これによってナノフレアや波動加熱の現場を直接とらえ、どのようなメカニズムがどのくらいの割合で発生しているのか、また、太陽風がどのように作られ宇宙空間へ流れだしているのか、その全体像を明らかにします。

図4:太陽コロナの加熱メカニズムとして、(左)太陽コロナ中の磁場によって微小な爆発現象がたくさん起きているという「ナノフレア説」と、(右)太陽表面のエネルギーが磁場を伝わる波によって上空に伝えられているという「波動加熱説」が提案されています。
図4:太陽コロナの加熱メカニズムとして、(左)太陽コロナ中の磁場によって微小な爆発現象がたくさん起きているという「ナノフレア説」と、(右)太陽表面のエネルギーが磁場を伝わる波によって上空に伝えられているという「波動加熱説」が提案されています。これまでの観測からは、現時点では空間・時間分解できていない微小なスケールの現象が、大気加熱に寄与していると示唆されています。Solar-C_EUVSTはナノフレアや波動加熱の現場をとらえ、高温プラズマの謎に迫ります。©︎JAXA/ISAS

03. 爆発現象フレアは、いつ、どのようにして起こるのか?

太陽フレアは、地球で起きる最大規模の地震の1万倍から1000万倍という莫大なエネルギーが、わずか数10分から数時間で解放される、太陽系最大の爆発現象です。太陽フレアが発生し、高速の太陽風が地球の磁場にぶつかると、地球ではオーロラが見られるなど、さまざまな影響が発生します。

太陽フレアは「磁気リコネクション」という過程を通じ、コロナ中に蓄積された磁場のエネルギーが熱やプラズマの運動エネルギーに変換される現象だと考えられています(図5)。しかし、フレアを説明できるほどの高速な磁気リコネクションはどのように発生するのでしょうか。そして、磁気エネルギーはどのように蓄えられ、突発的に解放されるのでしょうか。

従来の望遠鏡の性能では、これらの過程を解明することは困難でした。例えば、磁気リコネクションの生じる領域は相対的にとても暗く、また分解能も足りていませんでした。Solar-C_EUVSTは高い時間・空間分解能という強みを活かした分光観測を行うことで、太陽フレアがどのようにして発生するのかを明らかにします。

図5:太陽フレアはコロナ中に蓄積された磁気エネルギーが、向きの異なる磁力線同士がつなぎ替わる「磁気リコネクション」と呼ばれるプロセスによって、突発的に解放されることで生じると考えられています
図5:太陽フレアはコロナ中に蓄積された磁気エネルギーが、向きの異なる磁力線同士がつなぎ替わる「磁気リコネクション」と呼ばれるプロセスによって、突発的に解放されることで生じると考えられています。高速の磁気リコネクションモデルとして、磁気流体衝撃波が加熱をサポートするペチェック型リコネクションや、プラズモイド(磁気島)が多数生じることでリコネクションの効率をあげるプラズモイド誘起型リコネクションなどが提案されています。Solar-C_EUVSTはリコネクション領域を高時間・高空間分解した観測を行うことで、高速磁気リコネクションの謎に迫ります。©︎NASA、AAS

04. Solar-C_EUVSTの3つのアプローチ

2006年に打ち上げられた「ひので」衛星は可視光望遠鏡(SOT)や極端紫外線撮像分光装置(EIS)などを搭載し、磁気流体波動の検出や多様な磁気リコネクション現象の観測をはじめとする、太陽磁気活動の理解に大きな進展をもたらしました。一方、両者の観測する温度帯(すなわち大気層)にギャップがある(SOTは光球・彩層、EISはコロナ)、両者の空間分解能が大きく異なる(SOTは0.3秒角、EISは2秒角)などの弱点がありました。そのため、物質やエネルギーが輸送・解放される過程を詳細に追跡する必要のあるコロナ加熱問題や、暗い磁気リコネクション領域を高感度かつ高空間分解能で観測する必要のあるフレア爆発問題に迫ることが困難だったのです。

そこでSolar-C_EUVSTは、「ひので」など従来の観測装置では迫ることができなかった課題を解決するため、3つの独自のアプローチを取ります。

  • 1万度から100-1000万度までの幅広い温度にわたるシームレスな観測
  • 高空間(0.4秒角)・高時間(1秒)分解の観測
  • 高性能の分光観測(2 km/sを見分けるスペクトル分解能)

05. 波及効果(アウトカム)

Solar-C_EUVSTの観測によって、高温のコロナや太陽風はどのように作られるのか、そして、爆発現象フレアはいつどのようにして起こるのかが明らかになります。これらの科学課題を推進することは、以下の理解につながります。

  • 太陽大気の形成を解明することは、太陽とは別の環境にある恒星の大気がどのように作られるのかを理解することにつながります。
  • 太陽フレアの発生メカニズムを解明することは、近い将来のフレア予報(宇宙天気予報)につながります。
  • 地球上で再現実験のできない太陽の諸現象を観測・解明することは、プラズマ物理や原子物理など基礎過程の理解や検証につながります。
  • 現在の太陽コロナや太陽風、そしてフレア活動を理解することは、生命が地球に誕生した当時の太陽地球環境を知ること、さらにはなぜ地球に生命が誕生したのかという謎の解明につながります。
  • Solar-C_EUVSTの観測を行うことは、小型衛星を活用した高空間分解能観測技術の獲得・確立につながります。